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日本酒は、信頼という通貨によって築かれてきた。
開かれた互恵関係
組合と蔵、蔵と酒販店、蔵と地域、蔵と蔵。日本酒という文化、伝統、産業を支えてきたのは、金銭で完結する閉じた取引ではなく、自分が差し出したものが地域や業界というコミュニティへと連鎖していく「開かれた互恵関係」である。
通貨という言葉を使ってはいるが、これは金銭の話ではない。もっと心の奥底にある、当人にも言葉にしにくい感覚である。誰かが設計した制度というより、関わる人たちが無意識のうちに共有してきた意識によって、この業界は成り立ってきた。
パイの拡大なくして、構造改革なし
どれほど合理的に見える制度や取り組みであっても、それが一社の利得に資するものである限り、業界の賛同は得られにくい。免許制度も、輸出の基盤も、事業承継も、誰か一社が突出することでは解決しない。
事業承継も、出会いの数を増やすだけでは足りない。その後に何を再設計し、誰と組み、どの順番で立て直すのか。承継後の経営が地域と産業に開かれていなければ、免許と建物が右から左に動いただけで終わってしまう。
業界全体のパイを広げるという方向性を持てなければ、縮小する市場のなかで互いの体力を削り合うことにしかならない。それは共倒れであり、業界にとってのシステミックリスクだと私は考えている。
信頼は、実績を経て信用になる
伝統産業を救う、ブランディングをやれば儲かる。そうした言葉とともに外から入ってくる人は多いが、蔵の側には「またか」という思いが積み重なっている。私自身、各地の蔵に声をかけて回り始めた頃はそう見られていたと、今では笑い話として蔵から聞かされる。
信頼は、実績を経て信用に変わる。信用は一度損なえば取り戻すのに何年もかかり、信頼はその上にしか築けない。そしてこの心の奥底にあるものは、ときに理屈を超えて働く。データで対立の構図を解きほぐすことは大切だが、それだけではこの領域には届かない。
互恵性を体現するヒーローを
一方で、産業には憧れの対象となるスタープレーヤーが必要である。誰かに憧れてこの業界に入りました、という若者が現れることは素晴らしい。突出した個を心情的に許せない土壌と、突出した個を必要とする産業。私は、この二つは矛盾しないと考えている。
この業界で讃えられるのは、突出した実績以上に、業界に互恵性をもたらしている人である。自らの成功が酒販店や地域や後進に連鎖していることが見える人であれば、既存の事業者は嫉妬を超えて、喜んで応援し賛同する。
言葉にしにくいものを、それでも言葉にして、互いの恐れを因数分解し、何を守りたいのかを確かめ合う。その手間を惜しまないことと、賛同が生まれる土壌を制度と態度の両面から用意すること。それが、この業界における合意形成の実質だと思う。
自他共栄
これは「みんなで仲良くやればいい」という話ではない。何かをするときに、それが自らだけでなく、日本酒という文化と産業全体に資するものであること。この自他共栄の視点を持てるかどうかが、取り組みの成否を分ける。その視点なくして、この業界の再興はありえないとすら思う。
開かれているべきなのは、関係だけではなく言葉もである。世界的にアルコール消費が縮小するなかで、それでも何百年、何千年と人のそばに酒があり続けたことの意味を、茶の湯や食文化、地域の風景といった外の視点から語り直していきたい。
camoはこれからも、開かれた互恵関係の一員として、文化の継承と産業の発展に取り組んでいく。
camo株式会社代表取締役 カワナアキ